お腹のはり
「お腹が張って辛い」「ガスが溜まって苦しい」「食後にお腹が膨らんで見た目が気になる」…
このようなお腹の張り(腹部膨満感)を感じる方は少なくありません。
一時的なものであれば心配は少ないのですが、長引く場合や他の症状を伴う場合は消化器の病気が隠れている可能性があります。
ここではお腹の張りの原因とその対策について消化器内視鏡専門医の立場から詳しく解説します。
お腹の張り(腹部膨満感)とは?
お腹の張りとは、腹部にガスや食べ物や便が過剰に溜まることで、腹部が膨らんだように感じる状態を指します。
実際にお腹が物理的に膨らむ「膨満」と、見た目にも変化がなくても内部的に張ったように感じる「内臓感覚」の問題があります。
おならとは?

おならは普通の人でも1日500から1500mlの量が発生していると言われています。おならの成分の80%が窒素で、他には腸内細菌が作る二酸化炭素や水素ガス、そして酸素は2%とされています。
おならには、匂わないガスと匂うガスがあります。
- 匂わないガスの成分
匂わないガスの成分は、窒素や二酸化炭素、水素、メタンなどがあります。 - 匂うガスの成分
匂うガスの成分は、硫化水素や揮発性窒素化合物であるインドールやスカロールが含まれます。
お腹の張りの主な原因
便秘
便が腸管に長く留まると、腐敗・発酵によってガスが増えます。さらに便によって腸管が塞がれるため、ガスの排出も妨げられ張りを感じやすくなります。
食生活
多くの方のお腹の張りは食生活によるガスの増加が原因と考えられています。
- 早食い早飲み :急いで食べ物を食べると一緒に空気を飲み込んでしまいます。
- 炭酸飲料やビールの摂取:胃内に直接炭酸ガスが入り腹部膨満を引き起こします。
- 腸内細菌による発酵:糖質(小麦豆類甘いお菓子など)が腸内で発酵しやすくガスが多く発生します。
FODMAPをご存知ですか?
FODMAPは2005年に発表された概念で、糖質が腸内細菌で分解されて二酸化炭素や窒素ができ それが腸を膨らませ神経を刺激すると言う考えです。
FODMAPは、小腸で 吸収されにくい特定の糖質の総称です。
これらの糖質は小腸で十分に吸収されずに大町に出し、腸内細菌によって発酵されます。
この発 酵の過程でガスが発生したり、水分を引き込んだりするため、お腹の張りや腹痛下痢便秘などの 症状を表す可能性があります。
Fermentable(発酵しやすい)Oligosaccharides(オリゴ糖)、Disaccharides(二糖類)、 Monosaccharides(単糖類)And Polyols(ポリオール)の 頭文字をとっています。
- オリゴ糖 :オリゴ糖 小麦や玉ねぎ豆や納豆に含まれる
- 二糖類:牛乳やヨーグルト
- 単糖類:フルーツや蜂蜜
- ポリオール:甘味料であるソルビトールやキシリトール
普段の食生活を高FOMAP食から低FOMAP食に変えてみることも有効かもしれません。
(ただしこれは オーストラリアで開発された方法であり、日本人にそのまま適応できるかどうかは実証され ていません)
過敏性腸症候群
腸に器質的な異常がないにもかかわらず、ストレスや自律神経の乱れで腹部症状がでる病気です。
過敏性腸症候群の方は腸の内圧がわずかに上昇しただけでも、腸が異常に膨らんでいると脳が感じやすい状態になっています。
実際にガスが多く溜まっていなくても、強く張っているように感じるのが特徴です。
また精神的ストレスは自律神経を介して腸の働きや感覚に影響与えます。
腸の動きが速くなったり(下痢型)逆に遅くなったり(便秘型)するため、便やガスの通過がスムーズに行われず腸内に溜まりやすくなります。
小腸、大腸の器質的疾患
以下のような病気があってお腹の張りの背景にあることがあります。
大腸がん
腫瘍により大腸は狭窄し、便が排出しにくくなりガスが溜まりやすくなる
腸閉塞(イレウス)
腹部手術後の 癒着や、大腸のねじれで腸が詰まりガスや便が通らなくなる
炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
原因不明の慢性胃腸炎で、腸粘膜の炎症により 腸内細菌の乱れが起こり、免疫異常を起こしガスが発生しやすくなる。
これらの場合は、内視鏡検査を含めた画像検査による評価が必要です。
腸内細菌(腸内フローラ)の乱れ
腸内環境が悪化していると、善玉菌が減り悪玉菌が増えることでガスが発生しやすくなります。
抗生物質の服用、ストレス、偏った食生活(お肉の食べ過ぎ、野菜などの食物繊維不足、甘い物の 取りすぎ)が 主な原因です。
腹部の腫瘍・腹水
腹部の腫瘍や腹水(がんや肝硬変などが原因)により物理的にお腹が張ることがあります。
このような場合はC T検査や腹部超音波検査が原因を調べます。
対処法
食生活の見直し
- 炭水化物や糖質は控えめにする
- 食物繊維を積極的に取る(徐々に増やす)
- 炭酸飲料やビールは控える
- 低FODMAPを試してみる
ゆっくりよく噛んで食べる
早食いは空気を多く飲み込み、 また唾液による消化効率を落とすため胃腸に負担をかけます。
1口30回、1回の食事で10分から15分かけて、よく噛むことを意識しましょう。
軽い運動やストレッチ
ウォーキングやヨガなどは、ストレス発散になり自律神経を整え、朝の蠕動運動を促進し、ガス や便の排出を助けます。
腸マッサージ(「の」の字を 描くようにお腹の右下から上⇨左⇨左下に優しくお腹をマッサージ する)と腸の運動が活発になります。
強く抑えないように注意してください。
ストレス対策
ストレスで交感神経が優位になると、腸の蠕動運動が低下します。ストレスが原因の場合には睡眠やリラックス法(瞑想、入浴など)が効果的です。
お腹の張りが続く時は専門医の受診を
以下のような症状が伴う場合は、放置せずに専門の医師の診察をおすすめします。
- 張りが長期間(1ヵ月以上)続く
- 便通異常(便秘、下痢、血便)がある
- 食後の吐き気や嘔吐がある
- 50歳以上で初めての腹部膨満
内視鏡検査(胃カメラ、大腸カメラ)や腹部エコー、CT検査を行うことで、原因となる疾患を正確に診断し、適切な治療につなげることができます。
まとめ
お腹の張り(腹部膨満感)は食生活や腸内環境の乱れによるものが多い一方で、消化器疾患が隠れている場合があります。自己判断で放置せずに違和感が続く場合は、早めに専門の医師に相談しましょう。
当院では、内視鏡検査を含む精密な消化器評価を通じて、患者様一人ひとりの症状に合わせた診療を行っています。お気軽に相談ください。